い奴にあの親孝行無双の断髪令嬢を遣る訳には断然イカン。
「フン、知らんなら知らんでええ。その代りにこの犬の病気を出来るだけ早く治癒《なお》せ」
「アッ。そ……そいつはドウモ……」
「出来んと云うのか」
吾輩の見幕を見た羽振医学士がブルブル震え出した。すこしずつ後退《あとしざ》りをし始めた。
「ハ……ハイ。それはソノ……結核の第三期にかかっておりますので……ハイ……」
「変な事を云うな。最初から第三期か」
「イエ。その最初が初期で……その次が第二期で……」
「当り前の事を云うな。篦棒《べらぼう》めえ。最初から結核だったのか、この犬は」
「ソ……それがソノ……実験なんで……」
「何の実験だ……」
「それがソノ……今までジフテリヤにかかって手遅れになりますと、咽喉切開をして、その切開した部分へコンナ風にカニウレを嵌めます。ところがそのカニウレの穴から呼吸をすると色々な呼吸器病にかかる事がありますので……」
アンマリ真面目腐って講釈をするもんだから吾輩はちょっと嘲笑《あざわら》ってみたくなった。
惜しい鼻柱
「フウム。このカニウレを嵌《は》めた奴は人間でも犬猫でもこの通りチョ
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