ギャアギャアワンワンニャーニャーガンガン八釜《やかま》しい事|夥《おびただ》しい。その中でも犬の鳴声が圧倒的に大多数なのは吾輩の努力が与《あずか》って力がある訳で、心強いことこの上なしだ。その金網籠の一つ一つに、それぞれ所有主《もちぬし》の木札が附いている奴へ、番人が、それぞれに餌《え》を遣っている。この番人が犬や猫へ遣る御馳走をチョイチョイ抓《つま》んでいる事実を知っているのは吾輩だけかも知れないが、しかし又、こいつが居ないと、博士の卵連中が、研究室とかけ持ちで動物の世話をしなくちゃならないのだから文句は云えない。吾輩みたいに無代価で攫《さら》って来たシロモノを売りつける癖の附いた人間から見れば、この金網の番人なぞは、よっぽど尊敬していい訳だ。だから吾輩はいつでも出会うたんびに山高帽をチョッと傾けて敬意を表する事にしている。上には上があると思ってね。
ところでその金網籠に附けた木札を覗きまわってみると在った在った。ハブリと片仮名で書いた木札を附けた犬の籠が片隅に十ばかり固まっている。どうも恐ろしく犬ばかり集めたもんだと思ったが、よく見るとドレモコレモ見覚えのある犬ばかりだ。果然、羽
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