掃部《かもん》様は桜田門なんか通らなかったら首無し大名なんかにならないで済んだであろうし、キリストやクレオパトラだって今の世に生まれていたら柊林《ハリウッド》あたりのステージで抱合って、監督をハラハラさしているかも知れない。俺だって十四の年に女郎買いに行ったのが振り出しで、いつの間にかコンナ犬攫《いぬさらい》のルンペンに……まあそんな事はドウでもいい。とにかく偶然ぐらい恐ろしいものは世の中にない。
ところで問題は眼の前の仕事だ。……出来るだけ美味《うま》い酒が飲めるような結論の方向へひっぱって行きたいものだが……差当って先ず、何といっても問題のフォックス・テリヤUTA《ウータ》を探し出すのが目下の急務だろう。
ところで面白い事に吾輩はそのテリアUTA《ウータ》を売付けた相手の顔をチャンと記憶しているんだ。誰でもない、大学の耳鼻科の教室で研究している羽振菊蔵という医学士だ。今の令嬢の話に出て来た通りの、いやにノッペリした気障《きざ》な野郎だが、そいつの手にUTA《ウータ》が渡っているんだから冗《くど》いようだが偶然は恐ろしい。むろん羽振医学士は、そんな事とは夢にも知らない筈だし……イ
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