たいな声を出して、アウーアウーと合唱する。そのほかABCのカード拾いだの、十以下の計算の答えをカードで出したりするので、令嬢はそれこそ有頂天になって、名前をUTA《ウータ》と名付けて、手の中の玉みたいに可愛がって夜は一緒に抱いて寝る。眼が醒めると、
「サア。ウーちゃん御飯をお上り」
 と頭を撫でてやる。お客様が来ると直ぐに連れて来て芸当をやらせる。お客様が感心すると抱き寄せて頬ずりをしてやる。
「ねえ、随分|怜悧《りこう》でしょ。これ唖川小伯爵から頂いたのですよ。ねえねえウーちゃん。アラアラ眼脂《めやに》が出ているわよ」
 なんかと云って嘗《な》めてやらんばかりにして見せるので大抵のお客が驚いて帰ってしまう。夜となく昼となく甘ったるい言葉ばかりかけるので実の両親までもが、朝から晩までエヘンエヘンと云っていたという。
 ところが、その父親に対する妙な風評が、次第に高まって来て、門の表札が引っぺがされたり、二階の硝子《ガラス》窓から石が飛込んで来たりし始めると間もなく、突然にそのUTA《ウータ》君が行方を晦《くら》ました。むろん逃げたものだか殺されたものだか見当が附かない。門の外に出さない
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