《のろけ》豪華版

 それから断髪令嬢がシャクリ上げシャクリ上げ話すところを聞いているうちに、やっと事情《わけ》が判明《わか》って来た。この断髪令嬢は本名を山木テル子さんという山木氏の一人娘で、エース女学校を去年卒業したばかりの才媛である。二年|前《ぜん》に前外務大臣|唖川《おしがわ》伯爵の令息で、唖川|歌夫《うたお》という外務省情報部勤務の青年と婚約が出来ているのが、父親山木|混凝土《コンクリート》氏の疑獄事件で、そのままになっているという。
 ところで、その唖川歌夫という青年外交官は、嘗《かつ》てその婚約時代に和蘭《オランダ》、独逸《ドイツ》、瑞西《スイス》を遊学してまわった事があるが、その帰朝土産に仏蘭西《フランス》は巴里《パリ》の犬の展覧会から、何万|法《フラン》か出して買って来た世界第一、無類|飛切《とびきり》というフォックス・テリヤのお手本みたような仔犬を一匹持って来て令嬢に与えた。
「式を挙げるまで、これを僕と思って可愛がって下さい」
 という婚約者のお手本みたいな甘ったるい文句附きであったが、その犬の特徴というのは、ピアノを弾き初めると妙に眼を白くして天井を見てアクビみ
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