のだからといって鑑札を受けていなかったのが、運の尽きであったのかも知れない。
テル子さんはキチガイみたいになった。むろん警察に頼んだ。私立探偵も雇った。自分でも男装して父親のパッカードのオープンを運転しながら、市中を駈けまわって探したものであるが、そのうちに世間の父親に対する憎しみがだんだん高まって来ると、とうとうそのパッカードにまで石を投げる奴が出て来た。しまいには壮士みたいな奴が五六人、大手を拡げて行手に立塞《たちふさ》がったりするようになったので、流石《さすが》の断髪、男装令嬢も門外へ一歩も出られなくなってしまった。おまけに「非国民の断髪令嬢、大威張りでパッカードを乗廻す」という新聞記事で止刺刃《とどめ》を刺されてしまった。
ところが間もなく更に、それ以上の打撃がテル子嬢の上に落ちかかった。
その頃既に父親の山木コンクリート氏は、世間の風評に対して極度の神経過敏症に陥っていたらしい。そのUTA《ウータ》が居なくなったのは婚約者の唖川小伯爵がコッソリ盗み出したものに違いないと云い出した。俺みたいな奴の娘を名門の息子が貰う訳に行かないというので、父親の唖川前外相の指令か何かを受
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