猿博士の乾分《こぶん》で、法医学の副手をやっている男が、是非とも中位のセパードが一匹欲しい。軍用犬の毒物に対する嗅覚と、その毒物に対する解剖学上の反応を調べてみたいのだが、ナカナカ手に入らないので困っている。金は十円ぐらいまで奮発するから一つやってくれ。鬚野先生以外にお頼みする人が居ないのだから……と恐ろしく煽動《おだ》てやがったから特別を以て引受けてやった。
そこでその副手から鋭利なゾリンゲン製の鋏《はさみ》を一挺借りて、その日一日中と、あくる日の夕方までかかって市中の屋敷町という屋敷町をホツキ歩いたが、誰でも知っている通りセパード級の犬になるとどこの家《うち》でもナカナカ外へ出さない。タマタマ出していてもゾッとする位大きな奴だったり、頑丈な男が鎖で引っぱっていたりして注文通りの奴に一度も行当らない……これでは日当にならない。ほかの雑犬《ざっぱ》を漁《あさ》って数でコナシた方が割がいい。これ位で諦らめて鋏を返してしまおうか知らんと胸算用をしいしい来るともなく、市内でも一等繁華な四角《よつかど》の交叉点《こうさてん》へ来てて、ボンヤリ立っているうちに、居た居た。生後三箇月ぐらいの手頃
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