のセパードで、お誂《あつら》え向きに革の細い紐で引っぱられている。しかも引っぱっている奴は四十五六ぐらいに見える貴婦人だ。
 吾輩は元来、貴婦人気取の女が嫌いでね。都合よくエライ親父かエライ亭主に取当ったのを自慢にして、ほかの女とは身分が違うような面付《かおつき》をしている……その根性がイヤなんだ。貴婦人と普通の女の違いは、債券に当った奴と当らない奴だけの違いじゃないか。
 しかもその身分違いをハッキリさせるために、平民が寄付けないようなドエライ扮装を凝《こ》らしやがる。薄黒いドーナツ面《づら》へ蒟蒻《こんにゃく》の白和《しらあ》えみたいに高価《たか》いお白粉《しろい》をゴテゴテと塗りこくる。自分の鼻が慣れっこになればなるほど、強烈な香水を振りかけるから、何の事はない、塗り立てのコールタールだ。目の見えない奴は新しいポストと間違えて避《よ》けて行くだろう。気の強い奴は処女に見せかける了簡と見えて、頬ペタをベタベタと糞色《うんこいろ》に塗上げている。おまけに豚の尻《けつ》みたいな唇を鮮血色に彩《いろど》っているから、食後なんかにお眼にかかるとムカムカして来るんだ。特権階級を気取るつもりら
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