得ている奴が猫だ。物蔭から「フッ」というと間一髪の同時に身構えるという、講道館五段以上の達人だから容易な事では手に合わない。もっとも蝮《まむし》を手掴みにする商売人も居るんだから練習すると相当に掴めるんだが、持って帰るのが面倒だ、中々マントの内ポケットにジッとしてなんかいないんだから袋の口を釦《ぼたん》で止めとかなくちゃならん。
 だからコイツは釣るの一手だ。何でも構わないからコマギレを引っかけた釣針に糸を附けた奴を、人通りの無い横露路か何かで、適当な猫の隠れ場所の在る近くに結び付けておくと、奴《やっこ》さん、散歩の序《ついで》に通りかかって引っかかる。チクリと来ると吐出《はきだ》すが又、喰う。そのうちに鈎《かぎ》が舌に引っかかるんだが、引っかかったら最後、決して啼かないから妙だ。
「ミイやミイや」
 なんて抱主《かかえぬし》が探しに来てもジイッと塵箱《ごみばこ》の蔭なんかに隠れてしまうからナカナカ見付からない。頃合いを見計らって、そいつを拾ってまわると一日に五匹や六匹は間違いない。釣針に附いた糸をマントのボタンに捲付《まきつ》けておけば神妙に黙ったまま藻掻《もが》いている。
「まあま
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