感ず。武士は己《おのれ》を知る者のために死すだ。考えてみると吾輩というこの人間の廃物を拾い上げてくれた奴は、次から次に、吾輩のために非業《ひごう》の死を遂げて行くようだ。最初が木乃伊《ミイラ》親爺、その次が有閑夫人亜黎子、いずれも吾輩と似たり寄ったりの廃物揃いであったが、今度はどうして廃物どころじゃない、日本第一の法医学者、鬼目博士と来ているんだから間誤間誤《まごまご》しているとこっちが位《くらい》負けして終《しま》うかも知れない。むろんこっちでも恩を仇《あだ》で返す了簡《りょうけん》なんか毛頭無いんだが……とにもかくにも吾輩の博士製造業……往来の犬生かし事業は、こうして天狗猿の鬼目博士から授《さず》かったものなんだ。

     ウンコ色貴婦人

 そうだよ。目下のところ、吾輩は犬が専門だよ。以前《もと》は猫もやっていたが、アイツは中々手数がかかるんだ。
 猫という奴は芸者と同様ナカナカ一筋縄では行かない。ニャアニャアいって御機嫌を取るようだが、元来は猛獣なんだからそのつもりでいないと非道《ひど》い目に会う。その猛獣一流のハッキリした個人主義を伝統していて、自分以外のもの一切を敵と心
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