しない事が実験済みなんだから平気なもんだよ。
そんな訳で町から町をブラブラして手に入れた犬を大学や医学校へ持って行くと、博士の卵が待ちかねていて、一匹八十銭から二円五十銭ぐらいで買ってくれる。平均すると衛生学部が一番高価くて、生理や解剖が一番安いようだ。これは衛生学部だと狂犬病の実験に供して、高価《たか》い予防注射液を作る資本にするから、割に合うので、生理や解剖だと切積《きりつも》った研究費で博士になろうと思っている筍《たけのこ》連中が、単なる使い棄てに使うつもりだからだろう。勿論、学生上りだからといったって馬鹿には出来ない。相当、足元を見る奴が居るので油断が成らないが、非道《ひど》い奴になると吾輩を乞食扱いにして値切る奴が居る。
「オイ、鬚野《ひげの》先生。三十銭に負けとき給え、ドウセ無料《ただ》で拾って来たんだろう」
そんな奴には、よく犬コロをタタキ附けてやったもんだ。横面《よこっつら》を引っ掻かれたり、眼鏡を飛ばされたりして泣面《なきっつら》になって謝罪《あやま》る奴も居た。
「篦棒《べらぼう》めえ。無代《ただ》で呉れてやるから無代で博士になれ。その代り開業してから診察料を取
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