たくも生きたくもないといったようなアンバイでブラリブラリやっている中《うち》に、イツの間にか現在の職業に転落して来ると又、世の中がチットずつ面白くなって来た。
 何しろ世間の人間が殆んど気附かないでいて、ステキに儲かる商売だからね。又気付いたにしたところが、滅多《めった》に手を出せる商売でもないんだがね。イイヤ。詐欺でも泥棒でも、乞食でも何でもない。そんな間《ま》だるっこいヘゲタレ商売とはタチが違うんだ。詐欺と泥棒と乞食の上を行く商売だ。毎日毎日往来を歩きながら、オール日本人の生命《いのち》の綱を握っていようという、警察でも大学でも吾輩の前には頭が上らない上に、毎日|美味《うま》い酒が飲めようというんだから大した商売だろう。
 ……そんなドエライ商売がどこに在るかって……ここに在るんだ。この破れマントのポケットの中に在るんだ。今見せてやろう。ホラこの通りだ。

     博士製造業

 何を隠そう。吾輩の職業というのは医学博士を製造するのが専門だ。
 笑っちゃイカン。世の中に何が気楽だといったって医学博士を製造する位ワケのない仕事は無いんだ。一人前の掏摸《すり》やテキ屋を作るよりもヨッ
前へ 次へ
全131ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング