しているところは誰が見ても街の女としか思えない。
 老伯爵は眼を剥《む》いた。眼を剥く筈だ。花嫁が淫売姿で堂上方《どうじょうがた》へ乗込むなんて手は開闢《かいびゃく》以来なのだから……。
「アハハハハ成る程。これじゃイクラ探してもわからないじゃろう。イヤ、お嬢さん、知らんで失礼したの……」
 吾輩がシャッポを脱ぐと、令嬢も嫣然《にこやか》にお礼を返した。
「わたくしこそ……でも色々と御親切に、ありがとう御座いましたわ」

     土管の中へ

「イヤ、名優名優。吾輩の前で、あれ程、シラを切っていた腹芸には感服した。その調子なら立派な伯爵夫人としての役もつとまるに違いない。ナアニ華族社会の女なんてものは偶然に取り当った地位を自慢にして、自分以外の女を如何にして軽蔑しようか、蹴落《けおと》そうかという事ばかり寝ても醒めても忘れていない下等動物でしかあり得ないのだからね。しかもその御主人の栄位栄爵というのも、先祖が関ヶ原あたりで豊臣家に裏切った手柄で、徳川将軍から貰った大名の地位が変形したものに過ぎないのだからね。これに反して市会議員となると何もかも独力で成り上ったのだから堂々たるものだ。
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