これぐらい冷やかしゃ沢山だ……」
老伯爵はポロリポロリと涙を流し始めた。頬の肉をヒクリヒクリと引釣《ひきつ》らせながら、哀願するように女将の顔を見上げた。
「いや、わしが悪かった。わしが悪かった。ところで伜はどこに居る」
こうなると老人はみじめだ。何よりも先に考えるのは我児《わがこ》の事だ、ここまで来ると、ルンペンも華族もタダの人間だ。
「ホホホ御安心遊ばせ、伯爵様。若様は最前から……」
と云ううちに部屋の入口に並んでいる女たちを押分けて、スマートな旅行服の青年が颯爽《さっそう》と這入って来た。
「お父様、只今。お話は最前から廊下で承っておりました。御心配かけて相済みません。上海亭から別の自動車で追っかけて来ておりました」
「おお帰ったか」
老伯爵の両眼から新しい涙が溢れ出した。
「そうして……その……花嫁はドコに居る」
女将が振返って、背後《うしろ》に並んでいる五人の女を見渡した。するとその中から顔を真赤にした洋装の一人がおずおずと進み出て、老伯爵に向って一礼した。最前上海亭で一番最初に吾輩に質問を試みた鶴子だ。唇と頬ペタを紅《べに》ガラ色に塗って、見事な腕を肩の上から露出
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