の御縁談を御承知下さいませんでしょうか。新聞種になんかおなりになりませぬ中《うち》に、御承知になりました方が、御身分柄お得じゃないかと考えるので御座いますが、どのようなもので御座いましょうか」
今度は吾輩が驚いた。老伯爵の次には吾輩がペシャンコになってしまった。これ程手厳しく一パイ喰わされた事は未だ曾てない。彼《か》の断髪令嬢が真赤な掴ませものであろうとは……そうして真実に一切を支配している運命の神様がこの吾輩でも何でもなかった。この上海亭の女将《おかみ》であったろうとは……。
況《いわ》んや老伯爵に到っては徹底的にペシャンコになってしまったらしい。真青になって椅子の中に沈み込んでしまったのは気の毒千万であった。左右を見ると二人の警官はいつの間にか部屋を辷《すべ》り出てしまっている。
そこで吾輩は改めて老伯爵の前に進み出た。
「どうです伯爵閣下。御名誉とか、お家柄とかいうものばかり大切がって、切れば血の出る若い生命の流れを軽蔑なさるからコンナ事になるのです。伜には内兜《うちかぶと》を見透《みす》かされる、女将には冷やかされる……」
「アラ、冷やかしなんかしませんわ。勿体ない」
「
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