ておりましたが、今日は又思いがけなく、コチラの若様の事で、是非ともお伺いしなければならぬ事が出来ましたので、序《つい》でと申しては何で御座いますが、みんな引連れて御伺い致しましたような事で御座います。オホホホホホ」
 老伯爵は棒立ちに突立ったまま、[#「、」は底本では「。」]眼を白黒させて唾液《つばき》を嚥《の》んだ。吾輩も余りの事に、棒立ちに突立ったまま、唾液《つばき》を嚥まざるを得なくなった。

     言語道断

「私が若様を存じ上げていると申しましたら不思議に思召《おぼしめ》すで御座いましょう。ところが若様は流石《さすが》にチャキチャキの外交官でおいで遊ばすのですから抜け目は御座いません。伯爵様が、私どもの店を御贔屓になっております事を、よく御存じでね。外務省の御用で上海へお出でになるたんびにお父様の御遺跡を御覧になりたいと仰言《おっしゃ》って私どもの処へお立寄りになりましたので、私どもでも特別念入りに御世話申上げましたところが、大層|御意《ぎょい》に叶《かな》いましたらしく、ずっと引続いて今日まで御引立を蒙《こうむ》っているので御座いますよ。ホホホホホホホホ。
 ……そう致
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