しましたらね。私どもがコチラへ参りましてからの事で御座いますよ。若様が、わざわざ私どもの処へお運び下さいまして、コンナ御相談をなさるので御座います。……自分が仏蘭西《フランス》から帰った後《のち》に、山木という市会議員のお嬢さんのテル子さんと仰言る方と婚約していたら、その山木さんが疑獄で別荘にお出でになったとかで、伯爵様が、そのお嬢様との婚約を諦めてしまえ、羽振さんからの婚約の申込を受けろと仰言って、どうしても御承知にならない。一方にそのお嬢様のおウチではお母様が脳の御病気で入院なすって、当分お帰りになる見込がなくなった上に、お父様のお妾《めかけ》さんだか何だかわからない女が、図々しく家政婦とか何とかいって乗込んで来てお嬢様のテル子さんを邪魔にするので、テル子様は泣きの涙で暮しておいでになるのが若様としては見ちゃいられないが、これはドウしたらいいだろうと仰言って、私に御相談が御座いました」
「ううむ。怪《け》しからん奴だ。親に相談すべき事を……ううむ」
と老伯爵が唸った。こうなると伯爵もへったくれもあったものじゃない。父親としての面目までも、丸潰れの型なしだ。しかし女将《おかみ》は一
前へ
次へ
全131ページ中124ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング