が泥棒だったらドウなるんだい。ハハハハハ」
「ホホホホホホホホホホ」
「ほほほほほほほほほほほ」
思いがけない大勢のなまめかしい声が聞こえたので、ビックリして振返ってみると、自動車の中に待たせておいた連中がゾロゾロと這入って来た。洋装、和装、頬紅、口紅、引眉毛《ひきまゆげ》取り取りにニタニタ、ヘラヘラと笑い傾《こ》けながら、荘厳を極めたロココ式の応接間に押し並んだところは、どう見ても妖怪だ。その妖怪中の妖怪とも見るべき上海亭の女将は、唖然となっている警官を尻目にかけながら、しゃなしゃなと歩み出て恭しく伯爵閣下に一礼した。
「オホホホ、ずいぶんお久し振りで御座いましたわねえ、伯爵様。先年北支那の王魁石《おうかいせき》さんと秘密に上海でお会いになった時には、手前共の処を大層|御贔屓《ごひいき》下さいまして、ありがとう御座いました。あの時に御引立に預りました娘たちを御覧遊ばせ、皆もうコンナに大きくなりまして御座いますよ。あれから間もなく私どもは上海を引上げまして、コチラの大学前に、店を開きましたので、その中《うち》に一度は御挨拶に出なくちゃならないならないと存じながら、ついつい御無沙汰致し
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