奴なんで……その日も、あっし[#「あっし」に傍点]と組になってステテコを踊ることになっていたんですが、そいつが派手な浴衣に赤褌《あかふん》のまんまボンヤリ甲板から降りて来やして、出《で》の囃子《はやし》を聞いているあっし[#「あっし」に傍点]の顔をジイッと穴のあくほど見ながら、小《ち》ッポケなドングリ眼《まなこ》をパチパチさせたもんです。
「おれあドウしてもわからねえ」
「何がわからねえ」
「世界が丸いてえ理窟が……」
「馬鹿だな手前《てめえ》は……イクラ云って聞かせたってわからねえ。台湾へ渡った時にヤットわかったって安心してたじゃねえか」
「それはお前《めえ》だけだ。俺《おら》あアレからチットモ安心していねえんだ。不思議でしようがねえんだ」
「何が不思議だえ」
「だって考《かんげ》えても見ねえ。あの地球儀みてえなマン丸いものの上にドウしてコンナに水が溜まっているんだえ……。おまけに大きな浪が打ってるじゃねえか……ええ……」
 そう聞くとあっし[#「あっし」に傍点]も頭の芯《しん》がジインとして考《かんげ》え込んじまいました。口では強いことを云いながら心の奥ではやっぱり心配していたんで
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