にメイ・フラワ・ビルの様子を探ると、出入りする奴はみんな変装した前科者ばかりなんで、イヨイヨそれと目星を附けて水も洩らさねえように手配りをきめた二十人ばかりのプレーグの配下《てした》が、アッという間もないうちにメイ・フラワ・ビルの地下室から七階まで総マクリにしてしまいました。双方とも怪我《けが》人や死人が出来たりして一時は戦争みたいな騒ぎだったそうですが、あっし[#「あっし」に傍点]はチットも知りませんでした。そこから抱え出されて聖路易《セントルイス》の市立病院の病床《ベット》に寝かされても相も変らず「わんかぷ、てんせんす」をやっていたそうです。
……ところで、まだ話があるんです。これからがホントに凄いんですね。
あっし[#「あっし」に傍点]があらん限りの注射と滋養物のお蔭で、やっとモトの頭になって退院させられた時はもうユーカリの葉が散っちゃった秋の末で、博覧会なんかトックの昔におしまいになっておりました。退院すると直ぐに警察に呼び出されて、ほんの型ばかりの訊問を通訳附きで受けますと、領事さんからの旅費を貰って桑港《シスコ》から日本へ帰りましたが、その途中のことです。たしか出帆し
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