頃コッソリと屋上庭園へ来てみると世にも哀れっぽい微《かす》かな微かなあっし[#「あっし」に傍点]の声で、
「じゃぱアーん。がばアーンめんとオー。ふおるもっさあアー。うう……ろん……ちいイイイ。わんかぷう……ウ。てんせえんすう――ッ……」
 てやっているんだそうです。そこで藤村さんは胸をドキドキさせながら抜き足、さし足その声の聞える方に近付いてみると、その声の主は屋上庭園のどこにも居ない。その向い側のメイ・フラワ・ビルデングの七階の片隅に在る真暗な小窓の中から聞えて来る事が、夜が更けて来るにつれてハッキリとわかって来た……というんです。
 しかし亜米利加通の藤村さんは決して慌てませんでした。何喰わぬ顔をして翌る朝、台湾館へ帰って来ると直ぐに華盛頓《ワシントン》の大使に頼んで、紐育《ニューヨーク》のプレーグっていう腕っこきの警察官に頼んだものだそうです。
 ちょうどそのプレーグっていう警察官は一生懸命になってギャングの巣を探していたところだったそうで、早速|紐育《ニューヨーク》の警視庁へズキをまわして取っときの刑事や巡査を借りて聖路易《セントルイス》へ乗込んで、土地の警察へも知らさないよう
前へ 次へ
全52ページ中48ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング