られているんでゲスから子供に捕まったバッタみてえなもんで……ウッカリすると手足が※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《も》げそうになるんです。
「そんなら今一つ面白いものを見せましょう」
 と云うと今度はその小窓と反対側の低い扉《ドア》を開けて、そこに掛かっている鉄の梯子《はしご》伝いに奇妙な眩《ま》ぶしい広い部屋へ降りて来ました。日本へ帰って来てから早稲田大学へ仕事をしに行った時にヤットわかりましたが、あれが水銀燈というものだったのですね。部屋のズット向うの隅のアーク燈みてえな眩《まぶ》しい、妙な色の電燈が一つ点《つ》いているキリなんですが、その光りで見るとカント・デックの顔色から自分の手の甲の色までも、まるきり死人のような鉛色に見えるんです。それでなくともあっし[#「あっし」に傍点]はサッキから死物狂いに暴れたアトで精も気魂も尽き果てておりましたので、カント・デックの片手に吊下げられたまま死人のように手足をブラ下げながらそこいらを見まわしますと、それはどこかの工場《こうば》の地下室としか思えません。コンクリートの天井と、床の間が頭の閊《つか》える位低い、ダダッ広い部屋にな
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