《かんらん》や、ゴムの樹の植木鉢の間に、長椅子だのマットだの、クッションだの毛皮だのが大浪《おおなみ》のように重なり合っている間を、甘ったるい恰好の裸虫《はだかむし》連中が上になり下になりウジャウジャとのたくりまわっているんですからトテモ人間たあ思えませんよ。金魚鉢に鰌《どじょう》をブチ撒《ま》けたぐらいの騒ぎじゃ御座んせん。
不思議なものでね。そんなのを見せ付けられていながらエロ気分なんてコレンバカリも起りませんでしたよ。今|考《かんげ》えてもあの時の気持ばっかりはわかりませんがね。多分、冥途《めいど》の土産……てえな気持で見ていたんでしょう。何がなしに見っともなくて、馬鹿馬鹿しくて、胸が悪くなるようで、横ッ腹の処がゾクゾクして無性に腹が立って来ましたが、そのあっし[#「あっし」に傍点]の耳へカント・デックの野郎が口を寄せて吐《ぬ》かしやがったもんです。
「あそこへ行きたいなら仕事をなさい」
あっし[#「あっし」に傍点]は又、あらん限りの死物狂いにアバレ初めました。部屋の中がムンムンと暑いので、汗みどろになってしまいましたが、何しろ太刀山《たちやま》みたいな強力《ごうりき》に押え
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