げて、横のドアから出て行きました。
「いけねえいけねえ。俺《おれ》あ明日《あした》っから又、台湾館の前に突立って怒鳴らなくちゃならねえ約束がして在るんだ。放してくれ放してくれ」
と大暴れに暴れたもんですが何の足しにもなりません。そのまんまその次の部屋だったか、その次の部屋だったか忘れましたが、小さな粗末な部屋へ抱え込まれますと、そこのコンクリートの荒壁に取付けられている一枚|硝子《ガラス》の小窓から向うの部屋を覗かせられました。ちょうど赤ちゃんがオシッコをさせられるようなアンバイ式にね……。
あっし[#「あっし」に傍点]は暴れるのをやめてボンヤリと見惚《みと》れてしまいましたよ。向うの部屋の状態《ようす》がアンマリ非道《ひど》いんで、呆れ返ってしまったんです。
ヘエ。それがドウモここではお話出来|難《にく》いんで……お二方《ふたかた》お揃いの前ではねえ。ヘヘヘヘヘ……。
何の事あねえ。水溜りに湧いたお玉杓子《たまじゃくし》でゲス。それがみんな丸裸体《まるはだか》の人間ばっかりなんですから開《あ》いた口が閉《ふさ》がりませんや。相当に広い部屋でしたがね。大きな椰子《やし》や、橄欖
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