扉の細工をさせようってえ腹だったのでしょう。……コイツは日本一の細工人に違いない。コイツを取逃《とりに》がしたら二度と再びコンナ細工は出来っこねえ……ぐれえに考《かんげ》えていたのかも知れませんがアブネエもんでゲス。今から考《かんげ》えるとゾッとしますよ。
 組み付いたと思った時にゃカント・デックに両腕をシッカリと掴まれておりました。しかもその指の力の強さったらありません。あっし[#「あっし」に傍点]の腕の骨が粉々《こなごな》になって行くような気持ちで、身体《からだ》中が痺《しび》れ上っちゃいました。トテモ敵《かな》わないと思わせられましたね。手錠を引千切《ひきちぎ》って逃げたっていう亜米利加でも指折りのカント・デックですから、柔道二段ぐれえじゃ歯が立ちませんや。
 デック野郎はあっし[#「あっし」に傍点]の腕を掴んだまま顔の筋一つ動かさねえでニコニコしながら吐《ぬ》かしました。
「アナタ。憤《おこ》るといけません。あたしカント・デックです。ゆっくりして下さい。面白いものを見せますから……」
 と云ううちにあっし[#「あっし」に傍点]を廻転椅子みたいにクルリと向うむきにして軽々と抱え上
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