博覧会場から踏み出すことはならねえ。亜米利加の町にはギャングとかガメンとかいう奴がどこにでも居て昼日中でも強盗や人浚《ひとさら》いをやらかす。気の弱い奴と見たらピストルで脅威《おど》かして大盗賊《おおどろぼう》や密輸入の手先にしちまうから気を附けろ。一度ソンナ奴に狙われたら生きて日本に帰《けえ》れねえからそう思えってサンザ威嚇《おど》かされておりましたからね。何の事あねえ不動様の金縛りを喰った山狼《やまいぬ》みてえな恰好で、みんな指を啣《くわ》えて、唾液《つばき》を呑み呑みソンナ女たちを眺めているばかりでした。
 可哀相に女の出来ねえ職人たら歌を忘れたカナリアみてえなもんで……ヘエ。あっし[#「あっし」に傍点]ゃ今でも気が若い方なんで、その頃はまだ三十になるやならずの元気一杯の奴が、青い瞳《め》をしたセルロイドじゃあるめえし、言葉も通じなけあ西も東もわからねえ人間の山奥みてえな亜米利加三界へ連れて来られて、毎日毎日そんな別嬪たちの色目づかいを見せ付けられながら涙声を張り上げて、
「わんかぷ、てんせんす。かみんかみん」
 をやらされているんですから、たまりませんや。ノスタレ爺もオームのオ
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