見立てやがったんだな、俺を女で釣って泥棒仕事のカラクリ細工に使おうとしやがったんだナ。して見るとコイツア飛んでもない処へマグレ込んで来ちゃったぞ。しかもここまで深入りしたからにゃトテも生きて日本にゃ帰《けえ》れめえ……と気が付くと腰を抜かすドコロかあべこべに気持がシャンとなっちまいました。
 ……妙な性分であっし[#「あっし」に傍点]は気が長い時にゃヤタラに長いんですが、何かの拍子にカーッとしちまうと、それから先が盲滅法《めくらめっぽう》に手ッ取り早いんで……篦棒《べらぼう》めえ日本人じゃねえか。金やピストルに眼が眩《くら》んで毛唐の追剥《おいはぎ》や泥棒の手伝いが出来るかってんだ。「ふおるもさ、ううろんち」を知らねえかってんで、イキナリその毛唐に組付いて大腰をかけようとしたもんです。これでも柔道二段の腕前ですからね。
 ヘエ。それあ見上げたもんでしたよ。そこんとこだけがね。アトがカラッキシ意気地が無《ね》えんで……。
 今から考《かんげ》えてみるとあん時によく殺されなかったもんで……多分、出来ることならあっし[#「あっし」に傍点]を威《おど》かし上げて柔順《おとな》しくして、彼の棚の扉の細工をさせようってえ腹だったのでしょう。……コイツは日本一の細工人に違いない。コイツを取逃《とりに》がしたら二度と再びコンナ細工は出来っこねえ……ぐれえに考《かんげ》えていたのかも知れませんがアブネエもんでゲス。今から考《かんげ》えるとゾッとしますよ。
 組み付いたと思った時にゃカント・デックに両腕をシッカリと掴まれておりました。しかもその指の力の強さったらありません。あっし[#「あっし」に傍点]の腕の骨が粉々《こなごな》になって行くような気持ちで、身体《からだ》中が痺《しび》れ上っちゃいました。トテモ敵《かな》わないと思わせられましたね。手錠を引千切《ひきちぎ》って逃げたっていう亜米利加でも指折りのカント・デックですから、柔道二段ぐれえじゃ歯が立ちませんや。
 デック野郎はあっし[#「あっし」に傍点]の腕を掴んだまま顔の筋一つ動かさねえでニコニコしながら吐《ぬ》かしました。
「アナタ。憤《おこ》るといけません。あたしカント・デックです。ゆっくりして下さい。面白いものを見せますから……」
 と云ううちにあっし[#「あっし」に傍点]を廻転椅子みたいにクルリと向うむきにして軽々と抱え上
前へ 次へ
全26ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング