話だがね。つまりアンナ風な各国語に通じた正直な人間を高価《たか》い金でレコード用に雇っておいて、極めて重要なメッセージを送る場合に使うんだ。書類なんかイクラ隠したって見付かるし、暗号だって解けない暗号はないんだからね。本人に暗記さしておけばいいようなもんだが、日本人と違って外国人は買収が利くんだから、つまるところ、密書を持たせるよりも険難《けんのん》な事になるんだ。ことに露西亜《ロシア》なんかは世界中が敵で、秘密外交の必要な度合が一番高いもんだからトウトウアンナ事を発明したんだね。
先ずアンナ風に何も知らない人間を、昨夜《ゆんべ》みたいに麻酔さしておいて、スコポラミンと阿片《アヘン》の合剤を注射して、一層深い、奇妙な、変ダラケの昏睡に陥《おとしい》れる。それから十分ばかりしてコカインと、安息香酸と、アイヌの矢尻に使うブシという草の汁のアルカロイドの少量を配合した液を注射すると、本人は意識しないまま、脳髄の中の或る一部分が眼ざめる。そこへ電気吹込みしたレコードの文句を……ドウも肉声では工合が悪いようだがね。そのレコードの音《おん》を耳に当てがうと不思議なほどハッキリと記憶する。十枚分ぐ
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