膨れ上らせて来る。それと同時に伝わって来る目にも見えず、耳にも聞えない無限の大霊の戦慄は、サーカスじみた驚嘆すべき低空飛行で、吾々の天幕を震撼して行く味方の飛行機すら打消し得ない。
 その地殻のドン底から鬱積しては盛り上り、絶えては重なり合って来る轟音の層が作るリズムの継続は、ちょうど日本の東京のお祭りに奏せられる、あの悲しい、重々しい BAKA−BAYASHI のリズムに似ている……。
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Ten《テン》 Teretsuku《テレツク》 Teretsukutsu《テレツクツ》 Don《ドン》 Don《ドン》……
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 ……という風に……あの BAKA−BAYASHI の何億万倍か重々しくて物悲しい、宇宙一パイになる大きさの旋律が想像出来るであろうか……。
 私は日本の東京に来て、はじめてあの BAKA−BAYASHI のリズムを聞いた時に、殆んど同時に、大勢の人ゴミ中でヴェルダン戦線の全神経の動揺を想起して戦慄した。あの時の通りの吐気が腸《はらわた》のドン底から湧き起って来るのをジッと我慢した。あの時から私の脊髄骨の空洞に沁み込んで消え残って
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