総攻撃の際に於ける死傷者の始末を手伝うために、このキャムプに配属された、最終の一人に相違ないと思われる。
 ――我が独逸軍の一切の輸送は必ず夜中に限られているようである。仏軍は、そうした我軍の輸送を妨げるために、昨夜も見た通り毎晩日が暮れかかると間もなくから、不規則な間隔をおいて、強力な光弾を打上げては、大空の暗黒の中に包まれた繋留気球に仕掛けた写真機で、独逸軍全線の後方を残る隈《くま》なく撮影しているらしい。僅かな行李《こうり》の移動でも直ぐに発見されて、その方向に集中弾が飛んで来るので、輸送がナカナカ手間取っている。現に左手の二三|基米《キロ》の地平線上に、纔《わず》かに起伏している村落の廃墟には、数日前から二個大隊の工兵が、新しい大行李と一緒に停滞したまま動き得ないでいる状態である。
 ――だからあの光弾の打上げられている方向がヴェルダンの要塞の位置で、愈々《いよいよ》攻撃が始まったら、ここいらまでも砲弾が飛んで来ないとは限らない。
 ――新しく募集した兵卒は戦争に慣れないから、死傷者が驚くべき数に達することは、今から十分に予想されている。云々《うんぬん》。
 コンナ話を聞かされ
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