殆んど死物狂いの意力をあらわしつつハッキリと云った。
「……ミ……皆を代表して申しますッ。コ……ここで銃殺されるよりも……イ……今一度、戦線へ返して下さいッ。イ……一発でも敵に向って発射さして、死なして下さいッ。戦死者の列に入れて下さいッ……アッ……」
いつの間にか駈け寄って来たケンメリヒ中尉が、恐ろしく憤激したらしく、半身を支え起している軍曹の軍服の背中を、革鞭《むち》のようにしなやかな抜身の平《ひら》で力一パイ……ビシン……ビシン……と叩きのめした。
「エエッ。卑怯者ッ。今更となって……恥を晒《さら》すかッ……コン畜生コン畜生コン畜生ッ……」
「アイタッ……アタッ……アタアタッ……サ……晒します晒しますッ。ワ……私は……故郷に居る、年老《としお》いた母親が可哀相なばっかりに……もう死ぬるかも知れないお母さんが……タッタ一眼会いたがっている老母が居《お》る……居りますばっかりに……自……自傷しました……」
「ええッ。未練者……何を云うかッ……」
「アタッ。アタッ。わかりました。……もうわかりましたッ。何もかも諦らめました。ヴェルダンの火の中へ行きます……喜んで……アイタッ……アタア
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