い》医員として、来ていたことがある。それが、或る軍事上の研究の使命を帯びていたものであることは、この論文中の他の部分に於て察知出来るのである。
筆者は嘗《かつ》て鉄道事故のため負傷して、その外科病院に入院し、クラデル氏と知り合ったのである。氏に就《つ》いての印象は、遠慮のないところ、世にも不可思議な存在で、氏は自身に、「私は白人の中でも変り種です。学名をヒンドロ・ジュトロフィと呼ばれる一寸坊の一種です」と説明するように、背丈がグッと低く、十三、四歳の日本児童ぐらいにしか見えないところへ、頸部は普通の西洋人以上に巨大《おおき》く発達しているために、どうかすると佝僂《せむし》に見え易い。然《しか》しクラデル氏は、その精神に於ては、外貌とは全く反対な人物で、通例一般の片輪《かたわ》根性や、北欧の小国人一流の狡猾なところはミジンもなく、如何《いか》にも弱い、底の知れないほど人の好い高級文化人である。そして、勿論本職の外科手術については驚ろくべき手腕を持っていた。
さて最後に、彼が嘗て軍医として活躍したにもかかわらず、戦争の問題になると、徹頭徹尾戦慄と呪咀《じゅそ》の心を表明していたことを書
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