ランプのまわりには餅花《もちばな》や羽子板、ゴム鞠、運動具、おもちゃの船、車などが一パイに吊され、どれを見ても欲しくない物は一つもありません。
 室の正面には黄金のお太陽《ひ》様《さま》と白金《しろがね》のお月様を祭ってあります。その前には、鉄の冠を戴いて、白い顔に黒い髯《ひげ》を勢《いきおい》よく生やし、紺青《こんじょう》の着物を着た立派な冬の男神《おがみ》と、緑色の髪に花の冠を戴いて、桃色の長い着物を着た春の女神とが座わっています。その左右にはお釈迦様、イエス様、七福神、達磨《だるま》さん、鍾馗《しょうき》大臣、サンタクローズ、桃太郎、金太郎、花咲爺、乙姫様や浦島太郎、熊、鹿、猪や兎なぞいう獣《けもの》や鳥やお魚や山水天狗、つるまむし、へのへのもへしなぞいうおなじみの連中が四方へずらりと居流れて、今宴会の最中でしたが、玉雄と照子の兄妹《きょうだい》が這入って来ると、皆万歳と言って歓迎をして、二人を正面の冬の男神と春の女神の前に座らせました。
 二人は今までお話しには聞いていましたが、まさかこんなものが本当にいようとは思わなかったので、何とあいさつしてよいやら、只胸をドキドキさし
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