の中に打ち倒れて了《しま》いました。
その声が聞こえたのかどうだかはわかりませんが、玉雄がたおれると間もなく、向うの白い高い塔の一番下の処の入り口が開いて、そこから大勢の人が出て来ました。見ると、それはどれもこれも身体《からだ》に薄い白い着物たった一枚着た若いお姫様のような人ばかりで、素足で雪の中を舞い踊りながら吹きまわる嵐につれて歌をうたっています。
「ふれふれ雪よ 春は近い
ふれふれ雪よ 冬はおわる
ふれふれ真白に ふり積れ雪よ
吹け吹け風よ 吹き巻け風よ
一夜のうちに 雪の塔を作れ
冬と春とが わかれを告げる
名残のかたみ 雪の塔をつくれ
冬は行く 春は来る
ふれふれ 雪よ
春は来る 冬は行く
吹け吹け 風よ
ふれふれ 吹け吹け
吹き渦 巻いて
天まで遠く 雪の塔を作れ
世界の人も 獣《けもの》も鳥も
野山の草木も 気づかぬうちに
旭《あさひ》の光りが 照らさぬうちに
一夜で出来て 一夜で消える
高い高い 白い白い
水晶のような 雪の塔を作れ」
こう歌っているうちに舞姫たちはだんだん玉雄と照子の方へ近付いて来て、二人のまわりをくるくるまわ
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