。もう泣く声も出ず息も凍ってしまいそうで、只《ただ》夢のような気持になりました。
その時に玉雄は、林の向うを風につれて雲のように吹き渦巻く雪の切れ目切れ目に、一つの高い高い真白な塔のようなものが天まで達《とど》く位立っているのを見付けました。その塔の処々には小さな窓があって、赤や青や黄色や紫の美しい光がさしております。
玉雄は学校に行く途中、こんな塔が立っているのを一度も見た事がありませんでした。夢ではないかと眼をこすって見ましたが、矢張《やは》り本当に雪の中に立っているようです。玉雄は急に照子の肩をゆすって、
「照ちゃん、御覧よ。ホラあんな高い塔が……あれ、窓から美しい光がさして……さあ早く行きましょうよ、あそこまで」
けれども可哀そうに照子はもう死んだように横になって、只ぼんやり玉雄の顔を見ているばかりでした。
玉雄は一生懸命で照子を抱え起して、やっと背中に背負い上げて、膝まで来る雪の中を一足一足塔の方へ近寄りましたが、すぐ近くに見える塔がなかなか遠くて、いくら歩いても近寄られません。そのうちに玉雄は力が尽きて、
「助けて下さい」
と一声高く叫ぶと、そのまま照子と一所に雪
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