肯《うなず》かれたのであった。
彼女はその時に私の機嫌を取るつもりであったらしい。釣糸の先に引っかかった一匹の虎斑《とらぶち》の猫を、ここに書くさえ気味のわるいアラユル残忍な方法でイジメつけながら、たまらないほど腹を抱えて笑い興じるのであった。声も立て得ないまま瞳《め》を大きく見開いているその猫のタマラナイ姿を一生懸命の思いで、生汗《なまあせ》をかきかき正視しているうちに、私は、私の神経がみるみる恐ろしい方向に冱《さ》えかえって行くのに気がついていた。
……この女は有害無益な存在である。
……この女は地上に在りとあらゆる法律上の罪人のドレよりも消極的な、つまらない存在である。……と同時に、そのドレよりも詛《のろ》わしい、忌《い》まわしい、しつっこい存在でなければならぬ。
……この女は外国の残虐伝《ざんぎゃくでん》に出てくる女性たちの性格を、モッと小さくして、モッと近代的に尖鋭化《せんえいか》した本能の持主である……しかもこの女は、こうした趣味のためにワザワザ女優生活を飛びだして、人間世界から遠ざかって、こんなところに潜み隠れているので、私の眼に触れた動物以外に、まだドレ位の動物
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