ちに同情的な心証を残しておくと、後《あと》になってから非常に有利な事がある実例を知っていたので、コンナにヘトヘトになるまで、悲鳴をあげて抵抗し続けたのであった。
 それから私は予定の通り、スエーターもパンツも破れ歪んだミジメな姿で、三人の刑事に引っ立てられて立ち上った。そうしてシッカリと眼を閉じて仰向いたまま、ハアハアと息を切らしながら、板張りの廊下を真直に、表口の階段へかかったのであったが、その途中の鏡の前まで来ると、私は又もギックリとして立ち止まった。この間の晩の通りに……何故だかよくわからないまま……。
 ……大鏡の中には色の黒い、厳《いか》めしい三人の男と、いつの間にか鼻血にまみれている青ざめた、ミジメな私の顔が並んで突立っていた。
 ……その変り果てた自分の姿を、吸い付けられたような気持で凝視しているうちに、私は何故ともなく髪の毛がザワザワザワザワと逆立《さかだ》って来るのを感じた。私が構成した「完全無欠の犯罪」がこの鏡一つのためにコッパ、ミジンにブチ壊されてしまった事をハッキリと意識したように思った。
 ……と……気が付くと同時に私は、自分の姿と向い合ったまま、無限の谷底を
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