。モウ一度、
「新聞に書いちゃ嫌《いや》よ」
と念を押しながら……。
彼女の話を聞いた私は何よりも先に、彼女が特に私を相手に選んだそのアタマの作用に少からぬ関心を持たされた。彼女がコンナにまで苦心をして、絶対の秘密のうちに私を追っかけまわした心理の奥には、何かしら恋愛以上の或《あ》るものが潜んでいるに違いないことが感じられる……その心理の正体が突き止めて見たくなった。同時に彼女の男装の巧《たくみ》さにも多少の興味を引かれたので、そのまま二人で絶対安全の秘密生活を始めるべく、自動車をグルグルまわしながら打ち合わせをしたのであった。
その結果、私は毎晩、社の仕事が済むと、例の習慣を利用して、一時間だけ彼女のところに立寄る事になった。彼女も引続いて毎日、運転手姿で市中を流しまわる事にした。そうして私の前でだけ女になる事にきめた……一日にタッタ一時間だけ……。
……すこぶる簡単|明瞭《めいりょう》であった。しかも、それだけに私達の秘密生活は、百パーセントの安全率を保有している訳であったが……。
ところがこの「百パーセントの安全率」がソックリそのまま「完全なる犯罪」の誘惑となって、私
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