かかる、最後の手段を執《と》らなければならない事が予想されたので……。
 ……彼奴等《きゃつら》はいつもコンナ当てズッポー式の見込捜索をやるから困る。当り前に動かぬ証拠を押えて来るとなれば、百年かかってもここへ遣《や》って来る筈は無いのに……チエッ……。おまけに今、俺を引っかけようとしているトリックの浅薄《あさはか》さ加減はドウダ……そんな古手に引っかかる俺と思うか……と云いたいが今度だけは特別をもって引っかかってやる……その古手を利用してやる。その代り一分一厘間違い無しに証拠不充分になって見せるから、その時に吠面《ほえづら》かくな……。
 そんな事を思い思い運動服の上から、スエーターをぬくぬくと着込んで、ガマ口を尻のポケットへ押し込んで、鳥打帽子と西洋手拭と、ラケットと運動靴を抱えると、石鹸《せっけん》を塗って辷《すべ》りをよくしておいた障子をソーッとあけて、裏町の屋根を見晴らした二階の廊下に出た。そこで念のために前後を見まわしたが誰も居ない。
 ……シメタナ。事によったら今の芝居は、芝居じゃなかったかも知れないぞ。逃げる余裕が充分に在るのかも知れないぞ……しかしまだ往来まで出てみな
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