もそう云って下さい。二人は同罪だから罪ほろぼしをしろと云って下さい。……云々というのが戸若運転手の告白であった。
流石《さすが》に事に慣れた川崎署員たちも、こうした告白は珍らしかったらしい。戸若運転手が告白を終って頸垂《うなだ》れてしまってからも、四人の警官が互いに顔を見合わせてシインとしていた。しかしその中《うち》に巡査部長が、何かしら憂鬱そうな眼を据《す》えながら戸若の繃帯頭を凝視した。
「ウムよく白状した。お前の後悔は認めてやるぞ」
戸若は又一つ頭を下げた。シクシクとシャクリ上げ初めた。
「私が悪う御座いました」
最前から手持無沙汰でいた交通巡査がロイド眼鏡をかけ直した。帳面をヒネリながら問うた。
「ウム。それはそれでいいとして、衝突の原因はお前がライトを消さなかったせいじゃない。蟹口が故意に衝突さしたと云うんだな」
「ヘイ。そうなんで……思い出してもゾッとします」
「フーム。しかし、そいつは何ともわからんな。イクラ怨みが在るにしても、そんな無茶をやるのは……」
「イイエ……」
戸若は昂奮して立上った。自分の告白の神聖さを侮辱されたように眼の色を変えて、口を尖《と》んがらした。
「……そ……それに違いないんです。……でなけあコンナ事まで白状しやしません。ぶつかったトタンに私は……俺が悪かったッ……と怒鳴った位だったんです。ハタの奴には聞こえなかったかも知れませんけど……間違いありません」
と云ううちに額の傷が昂奮のために破れたらしい。繃帯の上に新しい血が真赤にニジミ出した。
交通巡査も二人の刑事も巡査部長と同様に憂鬱な顔になってしまった。相手の見幕の森厳《しんげん》さに圧倒されたかのように……。
「つい。まあええ。もちっと調べてみんとわからん」
交通巡査は幾分意地になったような語気で巡査部長に向って頭を下げた。
「ちょっと蟹口の助手をしていた山口猿夫という小僧の容態を見て来ます。口が利けたら審問してみたいですから……」
衝突|現場《げんじょう》附近の烏頭《うとう》外科医院に入院していた乳搾《ちちしぼり》少年、山口猿夫は左脚に巨大な石膏型《ギプス》をはめたまま意識を回復していた。枕頭《まくらもと》には妹田農場の牧場主任と園芸主任が突立ってヒソヒソ話をしていた。
警官の姿を見た二人が別室に退《しりぞ》いたアトで、交通巡査から委細の話を聞いた山口少
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