首を捻《ね》じ向けて舌なめずりをした。
「……何かい。何が可笑《おか》しかい。俺の英語が何が可笑しい。まだまだ知っとるぞ畜生。なあ頓野先生。そうじゃろがなあ。男ぶりチウタならトーキー活動のロイドよりも、まっとまっとええ男じゃしなあ。阪妻《ばんつま》でも龍之介でも追付《おいつ》かん。トーキー及ばんチウ言葉は、これから初まったゲナ……ええ。笑うな笑うな。貴様達はトーキー活動ちうものをば見た事があるか。あるめえが。この世間知らずの山猿どもが。キングコングの垂《た》れ粕《かす》どもが……」
「アハハハ……もうわかったわかった。もう止めてくれ給え伝六君。腹の皮が捩《よ》じ切れる。アハハハハ……」
「オホホホホホホホホホ」
「まあ、そう云わっしゃるな。その盃をばツーッと一つ片付けさっしゃい。なあ若先生。俺あ要らん事は一つも云いよらん。皆に云うて聞かせよるとこじゃ。なあ……若先生は村でタッタ一人のお医者様じゃ。しかしこげな山の中の素寒貧村《すかんぴんむら》には過ぎた学士様じゃ。先代の仲伯先生も云うちゃ済まんが、学校は出ちゃ御座らん漢方の先生じゃ。今度の医師会長のお世話で、隣村の頓野先生のお嬢さん……
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