しとれ」
「エベエベエベエベ」
「なあ若先生。魂消《たまげ》なさる事はない。これあ芽出度い事ですばい。たとい精神異状者《きちがい》じゃろが、唖女じゃろが何じゃろが、これあ福の神様ですばい。何も知らじい来た、今日のお祝いの御使姫《つかわしめ》ですばい。何とかして物置の隅でも何でも結構ですけに、置いてやって下さいませや。本来ならば役場で世話せにゃならぬところですけれど、この村にゃ[#「村にゃ」は底本では「村にや」]設備が御座いませんけに、なあ先生。功徳で御座いますけに……きょうのお祝いに来た人間なら何かの因縁と思うて、なあ若先生……これ位、芽出度い事は御座いまっせんばい」
「……………」
「どうぞもし……どうぞ若先生。先生の病院はこの功徳の評判だけでも大繁昌《だいはんじょう》ですばい。アハハ……なあ花坊。祝い芽出度の若松様よ……トナ……さあ。花ちゃん。この手を離しなさい。柔順《おとな》しうこの帯を離しなさい。この若先生が診《み》てやると仰言《おっしゃ》るけに……」
双肌脱《もろはだぬぎ》の伝六郎が、音に聞こえた強力で、お花の腕を※[#「てへん+宛」、第3水準1−84−80]《も》ぎ離そう
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