章魚の足
夢野久作

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)凧《たこ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)弱虫|奴《め》
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 凧《たこ》屋の店にいろいろ並んでいる凧の中で、達磨《だるま》と章魚《たこ》とが喧嘩をはじめました。
「ヤイ達磨の意気地なし。貴様は鬚なんぞ生やして威張っていても、手も足も出ないじゃないか。俺なんぞ見ろ。こんなに沢山イボイボの付いた手を八つも持っているんだぞ」
「そんな無茶を言うものでない。お前も坊主なら乃公《おれ》も坊主だ。坊主同士だから仲よくしようじゃないか」
「おれが貴様みたような奴と、手も足もないヌッペラボーと仲よくするものか。喧嘩すりゃあ負けるものだから、そんな弱い事を言うのだろう。態《ざま》を見ろ、弱虫|奴《め》」
 といきなりその長い八本の足で達磨を蹴り飛ばしました。達磨はたいそう口惜しく思いましたが、手も足もないのでただあの大きな眼玉から涙をホロホロ流して蹴られていました。
 傍にいた奴凧が大層気の毒がって、
「章魚さん、もう喧嘩はおよしなさい」
 と仲裁しました。
 すると章魚は、
「お前なんか黙っ
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