んだ。発見《みつ》かったら最後、機関長の免状を取上げられるどころじゃない。ドエライ罰金を喰わせられた上に、懲役にブチ込まれる事になるんだから、ソレ位のねうち[#「ねうち」に傍点]はあるだろう。況《いわ》んや何百人の生命《いのち》と釣りかえの問題だからね。
 しかもタッタそれだけの手加減で、汽鑵《ボイラー》の圧力《プレス》がグングンせり上って、圧力計《ゲージ》の針がギリギリ一パイのところまで逆立ちしてしまった。同時に推進機《スクリュウ》の廻転がブルンブルン高まる。速力《スピード》が出たどころの騒ぎじゃない。素人が見たら倍ぐらい早くなったように思える。両舷を洗う浪の音がゴオオ……ッ……ゴオオオ――オオッと物凄く高まったもんだから、デッキに立っていた連中はスッカリ安心してしまったらしいね。今までの心配疲れも出て来たんだろう。一人一人に船室《ケビン》へ帰ってグーグー寝てしまった様子だ。そこで機械と睨めっくらをしていた僕も、この調子なら大丈夫と思って、椅子に腰をかけたままウトウトしていた……までは良かったが……アトが少々面白くなかった。
 その翌る朝のまだ薄暗い中《うち》の事だ。ポートサイドで札
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