けとう》の胆《きも》っ玉《たま》をデングリ返してやるか……という気になって、ニッコリと一つ笑って見せたもんだ。
「お前さん方は運のいい船に乗り合わせたもんだ。一万|磅《ポンド》呉《く》れるなら、速力を今よりも五|節《ノット》だけ殖やしてやろう。むろん荷物は今のマンマで結構だ。モウ五|節《ノット》速くなったら、いくらエムデンでも追付かないだろう……しかし物には用心という事がある。万一お前さん方が、五|節《ノット》でもまだ足りないと思う場合にブツカルような事があったら、ソレ以上一|節毎《ノットごと》に、一万|磅《ポンド》ずつ、奮発してもらいたい。それでも足りなけあ紅茶を棄てる事だ。全速力三十一|節《ノット》まで請合う。それでも追付かなけあ諸君が海へ飛び込むだけの事《こっ》た」
とチョッピリ威嚇《おどか》してやったもんだが、毛唐の物分りの早いのには驚いたね。チョット別室で相談したと思う間もなく、シャンとした奴が五六人引返して来て、二千|磅《ポンド》の札束を僕の前に突き出した。むろんアトの八千|磅《ポンド》はポートサイドへ着いてから渡すという、立派な証文附きだったが、流石《さすが》の僕もソン
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