て行かれたかも知れない。
 ……コイツがケチの付き初めで、それ以来僕の乗る船に碌《ろく》な事はない。新式タービンのパリパリが、ビスケー湾の檜舞台《ひのきぶたい》でヘタバッたり、アラスカ沖の難航で、陸地《おか》が鼻の先に見えながら、石炭が足りなくなったりする。そんな時には石炭の代りに、メリケン粉を汽鑵《かま》にブチ込んで、人間も船体《ふね》も真白にしてしまったものだがね。もちろんこっちの手落ちだった事は一度もないんだが、不思議に運が悪いんだ。とうとうコンナ瓦落船《がらくたぶね》に乗って、骨董みたいなお汽鑵《かま》の番をするところまで落ちぶれて来た訳だがね。ハッハッ……しかし、お蔭で君達の喜びそうな冒険を、イクラ体験して来たか知れやしない。今サッキ話しかけた推進機《スクリュウ》の一件を、モウ一度|印度《インド》洋で蒸《む》し返した時なんぞは、今思い出してもゾッとする目に会ったね。ちょうど欧洲大戦のショッ端《ぱな》で、青島《チンタオ》から脱け出した三千六百噸の独逸《ドイツ》巡洋艦エムデンが、印度近海を狼みたいに暴れまわっている時分のことだ。
 大阪商船の濠洲《メルボルン》通いで、三洋丸という
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