が、新米でも何でも、水先を乗せるのが規則なんだから仕方がない。やっと今さっき水蒸汽《ランチ》で引上げて行きやがった。君見たろう……ウン……。もうこっちのもんだ。エコノミカル・スピードでブラリブラリと長崎へ着いて、ダンブロの荷物をタタキ上げれあ、後は南洋まわりと相場がきまっている。こう排日が非道《ひど》くちゃ、荷物一つ動かないからね。ナアニ。済まない事があるものか。コンナ船に乗ったら、ソンナ小面倒《こめんどう》な気兼ねは一切御無用だよ。国際的なルンペン船《ぶね》だからね。金儲けなら支那軍に売渡す鉄砲でも積込むんだ。怖いのは南支那海の三角波だけだよ。ハハハハ……。ナニ? 船賃? そんなもなあ要らないよ。王君がそう云やあしなかったかい。ウン。云ったけど気の毒だ。馬鹿な。納めるんなら十や二十の端《はし》た金《がね》じゃ駄目だよ。勿体《もったい》なくも麻雀の密輸入じゃないか。百や二百じゃ承知しないぜ……ナニ……それじゃ算盤《そろばん》に合わない。それ見ろ、ハッハッハ。僕の好意で乗せてってやるんだ。他ならぬ王君の頼みだからね。上陸してから鰒《ふぐ》でも奢《おご》り給え。それで沢山だ。ハハハ。お礼に
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