は及ばないよ。
それよりもドウだね。一つ機関室を見に来ないか。君と話しながら仕事をしよう。何も話の種だ。ホントウのドン底の地獄生活というのは、コンナ襤褸船《ぼろふね》の機関室だってことを、世間ではあまり知らないだろう。船底一枚下は地獄とか何とか云うけど、地獄の上に浮いた地獄があるなんて事は、船乗り以外には誰も知らない筈だからね。尤《もっと》も知られた日にはコチトラの首が百あっても足りないがね。ハハハ。何も怖いことはないよ。閻魔《えんま》大王の僕が御案内するんだから……。
ナニ……この部屋かい。大丈夫だよ。この鍵を預けとくからキチンと掛けておき給え。鍵は君が持っていた方が便利だろう。部屋を出るたんびに締りをしとく事だ。船員なんてな泥棒みたいな奴ばかりだからね……その鞄《かばん》は寝台の下にブチ込んでおき給え。ウン。鍵を掛けて封印して在るね。それなら大丈夫だ。中味の麻雀が船員に見付かると五月蠅《うるさい》からね。何とかカンとか云やがって、一杯飲ませなけあ納まらないんだ。
……こっちへ来たまえ。外はモウ涼しいね。二百廿日も無事平穏か……サッキの小蒸汽の煙がまだ見えてるぜ。引潮時だもんだ
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