かね。気に入ったかね僕の部屋は……尤《もっと》も気に入らないたって、これより立派な部屋が無いんだから仕方がないがね。ハハハハ……この船は荷物船《カーゴボート》だから、サルーンなんて気の利いたものは無いんだ。つまり荷物がお客様なんだから、人間の方が虐待されるんだ。堂々たる海牛丸、二千五百|噸《トン》の機関長が、コンナ部屋に跼《かが》まっているんだから推して知るべしだろう。ハハハ……迷惑だろうが長崎に着くまで、僕の寝台《ベッド》に寝てくれ給え。ナアニ僕は滅多《めった》にこの部屋で寝ないんだ。機関室の隅ッコにモウ一つ仕事部屋があるからね。毛布も枕もそこに置いて在るんだ。君のは今持って来さすからね。書物は無いが雑誌の古いのなら在る。持って来させようか。
ウンウン。
実は早く君の様子を見に来ようと思ったけれども、水先案内《パイロ》の野郎が乗っているうちは、機関室《しごと》の方が、忙しいのでね。おまけに今日の奴は知らない奴だったが、新米《しんまい》と見えて、矢鱈《やたら》に小面倒な文句ばかり並べやがったもんだからね。ナアニ、ここいらの水先案内《パイロテージ》なら、こっちが教えてやりたい位なんだ
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