。口頭試験で百三十ばかりの問題を立て続けにオッ冠せて来る。むろん片ッ端から即答さ。時計を睨みながら二三十秒ぐらい待ってくれるだけで、一分と過ぎたらその場で落第の宣告だ。恐らく僕の顔には血の気《け》が無かったろうと思う。それでもヤットの思いで汗を拭き拭き受け流して行くうちに試験官がパッタリと帳面を閉じたから、落第じゃないかと思ってハッとしていると、その顔を見ながら試験官の奴ニッコリしやがってね。イヤ、御苦労でした。成績は満点です。あちらの室《へや》で茶を飲みましょう。……と早口で云った時には、思わずポオーッと気が遠くなったね。しかし、それでも嬉しかったから尻尾《しっぽ》を振り振り、浮き足でクッ付いて行くと、廊下を一曲りした処の空《あき》部屋に僕を連れ込んで、熱い渋茶を一パイ御馳走した。その序《ついで》に室《へや》の中をグルリと見まわすと、試験官の奴モウ一度ニヤリと笑ったもんだ。
「この室《へや》に石炭が何|噸《トン》、詰まるでしょうかね」
 と冗談みたいに吐《ぬ》かしおってね……しかも、その顔付きたるや、断じて冗談じゃないんだ。たしかにまだ試験の中《うち》らしい面構《つらがま》えをしてケ
前へ 次へ
全46ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング